車体からMTを下ろす作業は、そのクルマ特有の構造や作業を把握していれば、順序通りにネジを緩めたり部品を外していくだけです。まずエアクリーナーを外し、バッテリーとその下にあるバッテリーケースを外せば、エンジンルームからもMTの全貌が見えるようになります。
ホイールを外し、ハブの中心にある大きなハブナットを緩めたら、ハブキャリアとストラットを切り離し、ブレーキキャリパーも外してストラットに吊るしておきました。
ロアアームやステアリングタイロッドのボールジョイントを切り離し、ドライブシャフトをハブから抜いてMTからも抜けばMTはエンジンと繋がっているだけになります。
シフトケーブルやクラッチの油圧経路を取り外したり、リバースランプを点灯させるスイッチの配線などを抜くのも忘れると大変です。
ボールジョイント自体をハブキャリアから抜くのも、ヘインズのワークショップマニュアルではロアアームにゴツい鉄骨かまして踏んづけろというなかなか強引な手法が紹介されてましたが、やってみるとVTSはブッシュが硬いのか私が体重を掛けてもボールジョイントが外れるほど下がりません。
結局、ロアアームブッシュの接続を切ってロアアームをフリーにすることでボールジョイントを抜き、ドライブシャフトは抜けました。
フランス車のメンテナンスを行ってくれる工場のブログなどをみると、サブフレームごと下ろしているところが多い印象です。何回か作業してこの方が結局は早くて楽ということに行き着いたのかもしれません。
しかしサブフレームを脱着するとホイールアライメントが狂ってしまう可能性もあるので、なるべくなら脱着したくないのです。それにサブフレームを外すにはマフラーも脱着する必要があり、基本的に一人で作業しているので、ちょっと大変なので避けたいのでした。
今回はロアアームブッシュの締結を切る(ボルトは抜けない)ことでハブキャリアからボールジョイントを抜いてドライブシャフトを外しましたが、逆に取り付ける時にはボールジョイントが入らず苦労しました。なので次回脱着する際には、別のやり方を検討したいと思っています。
事前に東京・足立区のプジョー専門店オートプロに相談に行き、シフトストロークの問題を話したのですが「ウチではそういったトラブルは起こっていないですね」とのこと。そしてシフト関係のパーツを発注したのですが、4つあるうちの2つが廃盤でディーラー経由では手に入らないとのことで断念したのでした。
そして次の手段として輸入車のパーツを専門に扱うパーツスペシャリスト山口に依頼してみると、なんと国内でパーツが揃うというので、取り寄せてもらいました。
オートプロではMT単体持ち込みでのオーバーホールは20万円との回答をもらっていました。しかし走行距離は5万km以下と少なくフルオーバーホールの必要性も薄いので、今回は自分で分解し原因を探して修理することにしました。
ところがMTを下ろし、ケースを割ってみてもみたところ異常は見当たりません。シフト機構の異常なので、シフトワイヤーからの動きをシフトフォークへと伝える部品の不具合に違いないと思っていたのですが、どうやら部品に問題はなさそうです。摩耗どころか新品部品の方が計測してみるとわずかに小さい状態のものもあるほどでした。
さて、MTの変速機構を色々調べてみると、怪しいのはシフトフォークを支えるシャフト周り。2、4、Rだけはミッションケースからシャフトが抜ける方向に動くのですが、アルミ鋳造のミッションケースのため、シャフトが刺さっている穴が摩耗して広がっているようです。
オイル管理か乗り方か、個体差なのか原因は分かりませんが、本来の修理はMTケース交換ということになります。しかしそれでは同じトラブルが起こる可能性は無くなりませんし、ケースが新品で手に入るかも不明です。
そこで広がった穴にブッシュを打ち込んでもらうことにしました。アルミ合金よりも硬い素材にすることで、摩耗を防いでくれるため、同じトラブルを起こす可能性は解消できます。
MTケースだけの状態にして加工屋さんに持ち込み、リン青銅でブッシュを製作して打ち込んでもらいました。埼玉県越谷市にあるARMさんは、日本一のエンジン加工屋として世界中からエンジン加工の依頼が集まっている業者です。
本来、個人の依頼は受け付けていない(ショップを通じて依頼可能)のですが、私は兄弟で懇意にしているので、相談したら快く作業を引き受けてくれたのでした。
MTケースの穴を広げ、リン青銅の棒材から削り出したブッシュを焼きばめする。文字にすると、これだけの作業ですが、100分の1ミリレベルの仕事(仕事によっては千分の1単位もあるとか)での精密な作業。何度かに分けて削り、計測し、圧入してから再び修正して完璧に仕上げてもらいました。
これで後は元通りにMTを組み上げて、車体に組み込むだけです。どうせなので5万kmはちょっと早いですが、クラッチ板も摩耗限界に近づいていたので新品にすることにしました。
今後、初心者が運転することを考えたら、摩耗が進むのでこの段階で新品に交換しておけば安心です。国内では3.6万円ほどのクラッチキットですが、問い合わせても適合が分からなかったので、ebayで英国から取り寄せました。
その結果、送料を入れても2.4万円ほどでクラッチを手にいれることができました。毎日、仕事の合間に1、2時間ずつ作業して1ヶ月ほど掛けてシトロエンC2 VTSのMT不具合は解消されたのでした。
でも、まだ他にも不具合や問題点は見つかっています。そのあたりの改善も次回に解説しましょう。