【君はついて来れるか?】開発者に訊いた「知れば知るほど難解なテインEDFC5というデバイスの奥深さ」から続く
インタビュアー:高根英幸(以下、高根)
EDFC5にGPSキットを取り付けた場合、GPS信号から車速を算出することができますが、その場合トンネル等のGPS信号を受け取れない場所では速度制御が使用できなくなってしまいますよね。
車速センサーから車速を取れる車の場合は、GPSキットを取り付けていたとしても車速センサから速度を取得することを推奨するのでしょうか? そうではない場合、GPSから速度を取得する優位性はあるのでしょうか?
テイン開発課 渡邊宏尚氏(以下、渡邊)
GPSキットですとトンネルに入った時は、GPS信号を受け取れなくなってしまうので、GPS信号を失う直前のところで、速度制御については止まってしまいますね。
高根
いわゆるそこから前後Gを検知して、加速度を見て速度変化を推測して走ってるっていう制御はしてないということですか。
渡邊
速度を変えず、Gは別のGセンサーで拾ってるので。速度制御がなくなるだけで、G制御は生きてます。

高根
いや、制御ではなく速度。GPS信号が取れないとなると、速度制御の部分で速度が測れなくなるわけじゃないですか。ただ、前後Gは変化がないとすると、同じ速度で走ってるっていう風には判断できますよね。そこは使っていない?
渡邊
そこは使ってないです。GPSセンサーとGセンサーは全く別個なので。単純にGセンサーはそういう速度制御がなくなっちゃう。そこからG変化があれば速度が落ちているとか、そういう制御はしてないですね。
高根
この車速センサーよりもGPSの方を推奨するんですか? テインさんとしては。
渡邊
精度を求めるのであれば、車速センサーから取ることを推奨します。ただ、今のクルマって車速を車体の信号から取ったりすると、どこかしらクルマ側にエラーが出てしまったり、何かしら変な制御が入ってしまったりする可能性もあるので、できればスタンドアローンを使っていただいた方がクルマに対して何も影響を与えないっていうところから、GPSを後付けの方がいいかなというところです。
推奨というか、悩んだらGPSつけとけば楽ですよっていう感じですね。
高根
要は、リスク回避のためなんですね。
渡邊
そうですね。トリップメーターとか、時計表示とか出るよっていうオマケもあります。
ちなみに弊社のデモカーは両方取ってますね。車速センサーからも信号取ってますし、GPSもついていて、デモカーなのでは今も使えるようにはしています。
高根
もし問題が起きれば、それはそれでテストケースになるわけですもんね。両方使ってると、トンネル内でも速度制御が生きてるって以外に何かメリットはあるんですか?
渡邊
GPSを使うか、車速センサーを使うか。モード選択する必要があるので、両方は使えません。
高根
そうか、ただ単に引っ張ってるだけで、使う時にはどっちかを選択しなきゃいけないわけですね。
なるほどですね。わかりました。ではジャーク制御は、初期ロールを抑えてステアリングの応答性を高める以外にどういう効果が期待できるのでしょうか。

渡邊
ジャーク制御については先ほどお答えさせていただいたように、対角制御してスリップアングルを同時につけることで旋回していくようなことをしております。
そうすることでサーキットでは回頭性が向上しますし、ミニバンだとロール角がどんどん浅くなっていくので、乗員が揺すられないので乗り心地とかも良くなりますよというような効果を出しています。
高根
ジャークってことは、でもそれはどっちかっていうと一瞬の制御なわけですよね。ほとんど乗員が気がつかないような。なるほどですね。
ではハードブレーキングなど急激にGが立ち上がるシーンでは、EDFC5の制御はどこまで対応できているのでしょうか?
例えばブレーキング時にはフロントの減衰力を高めると同時にリアの減衰力を下げてスプリングを伸ばしやすくして、リアタイヤのグリップを高めるような制御なんかもできるんじゃないかと思うんですが、そういうことは可能ですか?
渡邊
どこまで対応できるのか。そうですね、基本的には人間が感覚で感じないぐらいまでの制御はできてます。ブレーキング時にフロントの減衰を高めると同時に、リアの減衰下げてスプリングを伸ばしやすくするっていうのは、これは物理的には可能です。
ただこの時、リアのタイヤグリップを高めるのは、その時の良し悪しかなと思っています。逆にリアの減衰下げて伸ばしちゃうとフロントに荷重が乗りすぎちゃうから、リアがルーズになっちゃうかなっていう場合もあるんです。
ブレーキングの時はフロントの方だけ減衰高めてリアの減衰はそのままで、できれば姿勢変化がないようにした方が4輪のグリップで使えるという場合もありますね。
高根
そうですね。前が単純に沈み込みにくくするだけでも、もうリアに対しては効果があるわけだから、あえて柔らかくする必要もない場合もありますよね。
渡邊
逆にFF車では、リアのダンパーを固めちゃって足を伸びにくくして、内輪のグリップを下げちゃって旋回性を上げる、というも使い方もできます。
高根
旋回が上がるってことは、だからリアの内輪をなるべく使わないようにして、アンダーステアを殺すということですね。では意図せず車が滑ってしまった場合はどのような制御がされるのか、教えてください。
ドリフトにも使用できるようなお話でしたが、(外部スイッチでリアの減衰を固めることができるなど)が、サーキットなどで滑らせたくないが意図せず滑ってしまった場合は横Gが下がるため、減衰力が弱まりグリップを回復させるように働くのではないか、と思ったんですが、実際はどうなのでしょう。
渡邊
そうですね、車が意図せず滑ってしまった場合は、グリップが回復するように働きますね。
高根
これは編集部内から出た疑問なんですけど、私もこういう風になるんじゃないかと答えておいたんですが、一応確認のためにこれは渡邊さんに聞いといた方がいいなと思いまして。
渡邊
EDFC5を取り付けたGR86で、エビスサーキットで1回テストしたことがあるんです。そこで、今フォーミュラドリフト出てる小橋正典選手に「なんでもいいからドリフトしてみて」って言ったんですけど、ドリフトができなくなりましたね。特に1回振りか1回のスライドだったらできるんですけど、振り返しができなくなる。
高根
グリップしちゃうってことですか。
渡邊
クルマを落ち着かせよう、安定させようっていう風に動くので、振り返しができなくなって、何をしてもダメと。サイドブレーキ引こうが、クラッチ蹴ろうが何もできなくなると。でも制御を切ると普通にできるので、ちゃんと制御利いてるねっていう証明にはなりました。
高根
なるほど。そうすると逆に、だからもっとドリフトしやすくする制御も入れようと思えばできるわけですよね。
渡邊
最初にドリフトの振り出しとかは減衰高めてあげて、逆にドリフト中にリアに荷重かけたい時には減衰を緩めてあげるとか。
そして外部入力とかもできるので、例えば小橋選手の使い方ですと、ギアが3速に入った時、車速は上がってるんだけど、減衰下げたいってパターンもあって、3速入ったら減衰何段締めなさいって外部制御入れたりとか、いろんな使い方ができるんです。で、サイドブレーキを引いたら減衰を何段上げるとか、そういうこともできるので、使い方は自由自在なんです。
そんなものもあって、フォーミラードリフトではレギュレーション上使用禁止になっちゃっいました。今はサーキットで使えるのはD1GPだけなんです。それだけ効果があると認められてるからレギュレーション禁止になってしまってるんです。
高根
まあ、確かにドライバーのテクニックで勝負する部分だから、こういうものがついてるの、ついてないので優劣がついてしまうのは、いかがなものかと思ってしまうのもわかる気がしますね。
渡邊
S耐(スーパー耐久選手権)でも弊社の製品使っていただいてるチームはあるんです。でもレギュレーションで、走行中に減衰変更できるシステムの搭載は許されないってのがありまして…なので、EDFC5は使えないんです。
高根
そうなんですね、わかりました。ところでモーターの防水防塵性能はIP55(日常生活防水)ですが、FS2のような2wayダンパーの場合、別タンクにモーターを装着しても雨天走行時などに問題はないのでしょうか?
渡邊
防水防塵性能ですね。倒立とか2Wayなどで下側にモーターを取り付けても、もう全然走行はできます。その代わりモーターのところにゴムカバーがついてるんですけど、そこだけコーキングしていただければ問題なく使えます。
高根
コーキングというのは、ゴムカバーとモーターのその間のところ。そうすれば車体の下側にも使えるわけですね。
渡邊
はい。なので、倒立のダンパーでも全然問題ないです。


高根
なるほどですね。では、ダンパーの減衰力調整を96段じゃなくて、16段、32段、64段を選ぶメリットはあるのでしょうか?
私はダンパーのセッティングを進める時に2、3段まとめて回したりするんで、それぐらいのメリットしかないのかなと思ったんですけど、減衰力変化の応答速度とか変わったりするんでしょうか。
渡邊
応答速度は変わらないですね。16段をどんどん細分化して96段にしてるだけなので。96段で6段動かすと16段で1段相当なんで、そこの変化速度は一緒です。
高根
6段。96段の6段動かすのと、16段の1段動かす反応スピードは変わらないわけですね。
すると他になんか96段以外を選ぶメリットというのはあったりするんでしょうか。
渡邊
96段って元々我々はいらないんです。この96段になった経緯ってのが、ブリッツさんが同じようなシステムを出してて、96段使えるよって謳っているので。そこは一般のお客さんからすると多段の方が偉いっていうのがあるんで、合わせただけです。
高根
もうどっちが馬力あるか、みたいな話ですね(笑)。
渡邊
例えば16段モードで10段を使ってて、ちょっと9段にしたんだけど、ちょっと変化幅がありすぎるから、その半分にしたいと。だから、9.5段を使いたいっていう時とかに、30にしてもらう、32にしてもらうとか、そういう細かいセッティングをしていく。そういうところがメリットかなと思います。
高根
どういう風に変わってるのかを見るために、EDFC5の動作中を動画で撮ったんですけど、96段だと早すぎちゃって、残像がやっぱり残っちゃうんですね。そういう意味では、64段とか32段の方がどういう動きをしてるのかっていうのは、はっきり把握はしやすいかなと思いました。
渡邊
例えば1G入ったら、何段締めなさいっていうのは変わらないんです。変化幅は一緒なんですよ。だから「16段で1段変えなさい」だったら「96段にしたら6段変えなさい」っていう指示なんです。
結局変化幅は一緒なんで、16段でやってても96段でやってても変化幅は一緒です。ただ、見た感じに96段の方が激しく頑張ってますね。
高根
わけわかんないほど動いてると。96段なら細かくないですか? 実際16段の1段分ぐらい一気に動いてます?
渡邊
動いてます。動いてます。
高根
そうなんですね。じゃあ次回作では、この96段の時にはよりきめ細かい制御ができるといいですね。
渡邊
そうですね。もしかすると、もうちょっと違うことが始まってるかもしれませんよ。
高根
そうですか。色々と開発やってらっしゃるんですね。それはまた期待です。期待と言えば、EDFCの設定方法にスマホやPCとの連携できると、使い勝手が良くなるので、そのあたりも期待したいところなんですが、いかがでしょうか?
渡邊
そのような要望は多くいただくんですよ。例えばプログラムプリセットを変えるとか、もう少し簡単にできるような方法はちょっと考えていきたいなと思っています。できるだけ要望に近づけていけるような製品開発はしていきます。
高根
よろしくお願いします。いやー今日は勉強になりました、ありがとうございます。








