ディーゼルエンジンは19世紀末にルドルフ・ディーゼルによって発明されて以来、主に商用車、船舶、発電設備などの分野で利用され発展してきた。しかし近年は電動化の流れが加速し、内燃機関そのものが「時代遅れ」と見なされる場面も少なくない。
だがその中にあってもディーゼルエンジンは依然として高い可能性を秘めており、今後の社会においても重要な役割を果たし続ける技術だと言える。
まず第一に挙げられるのは、熱効率の高さである。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べて圧縮比が高く、燃料を自己着火させる仕組みを持つ。この構造により、燃焼時のエネルギーをより効率的に仕事へと変換できる。
実用エンジンとして40%を超える熱効率を達成している例もあり、これは現在の内燃機関の中でもトップクラスである。エネルギー資源の有効活用が求められる現代社会において、この高効率性は極めて大きな価値を持つ。
どうして熱効率が高いのか。それは単に圧縮比が高いことや燃料特性によるものではなく、ガソリンエンジンとは燃焼室内の空気の使い方そのものが大きく異なる点も重要なのである。
ディーゼルエンジンでは、吸入行程で取り込まれた空気が高い圧縮比によって強く圧縮され、燃焼開始時点ですでに高温・高圧の状態にある。ここに燃料が噴射され、空気中で燃焼が進行すると、発生した熱エネルギーはまず燃焼ガス全体の温度を上昇させる。
このとき重要なのは、燃焼の最終段階において空気そのものが加熱され、膨張仕事を担う主体となる点である。燃料はエネルギーの供給源であり、実際にピストンを押し下げるのは、加熱されて膨張した空気と燃焼生成ガスの混合体なのである。

また、ディーゼルエンジンは空気過剰のリーン燃焼で運転されるため、燃焼室内には常に燃料が存在しない空気領域が多く残る。この空気は単なる未使用部分ではなく、熱効率を高めるための重要な役割を果たしている。
燃焼室壁面付近には、燃焼温度の高い火炎が直接接触しにくく、火炎と壁の間には比較的低温の空気層が形成される。この空気層はいわば断熱材のように機能し、燃焼熱がシリンダー壁へ逃げるのを抑制することになるのだ。
ガソリンエンジンのように予混合気が燃焼室全体に存在する場合、火炎が壁面まで届くため、熱損失が増大しやすい。一方、ディーゼルエンジンでは燃料が噴霧された領域を中心に拡散燃焼が起こるため、燃焼が空間的に局在化しやすいため、壁面との距離を保ちやすい。この構造的特徴が、結果として冷却損失の低減と実効熱効率の向上につながっているのだ。
このように、ディーゼルエンジンは燃料の燃焼そのものだけでなく、燃焼室内に存在する空気をいかに「働かせるか」を重視したエンジンである。空気を最終的な仕事媒体として最大限に活用し、同時に熱損失を抑える設計思想こそが、ディーゼルエンジンが高効率を実現してきた根本的な理由であり、今後のさらなる効率向上においても重要な鍵となるだろう。
この空気が最終的に熱膨張することで有効な仕事を生み出す点と、空気層が熱損失を抑制する点は、ディーゼルエンジンの本質的な強みを示している。
現代のクリーンディーゼルはターボチャージャーの利用が必須となっている。ディーゼルエンジンはもともと空燃比がリーン(空気過剰)で運転されるため、過給によって多くの空気を送り込むことが性能向上に直結しやすい。
また、排気エネルギーが大きく、ターボを駆動するのに十分なエネルギーを安定して得られる点も有利である。現在では可変ジオメトリーターボ(VGT)などの技術により、低回転域から高回転域まで効率的な過給が可能となり、ディーゼル特有の高トルク特性をさらに強化している。
自然吸気のディーゼルでは常に高圧縮で軽負荷時には圧縮による損失も大きいが、ターボチャージャーと組み合わせて圧縮比を下げることにより軽負荷時には圧縮損失を抑えて、なおかつ小排気量化も可能となる。結果として、小排気量でも大きな出力を発揮でき、燃費と動力性能の両立が実現されているのだ。
燃料に関してもディーゼルはメリットだらけ
燃料噴射技術の緻密さもディーゼルエンジンの特徴である。現代のディーゼルエンジンでは、コモンレール方式を中心とした高圧燃料噴射システムが採用され、2000気圧を超える超高圧で燃料を微粒化し、精密に制御している。
噴射回数やタイミングを細かく分割する「多段噴射」により、燃焼の急激さを抑えつつ、効率と静粛性を高めることが可能となった。これは、かつてディーゼルエンジンの弱点とされていた騒音や振動、排出ガスの問題を大きく改善する要因となっている。

ディーゼルエンジンは点火プラグを用いず、圧縮によって燃料を自然着火させる方式を採用している。そのため、燃料に求められる本質的な条件は「自己着火しやすいこと」、すなわちセタン価が高いことである。
この特性により、軽油だけでなく、バイオディーゼル、合成ディーゼル、さらには将来的な新燃料に対しても柔軟に対応できる余地が大きい。燃料の化学組成が変化しても、着火性さえ確保できれば、エンジン設計を大きく変えずに利用できる点は、脱炭素時代において極めて有利である。
ディーゼルエンジンのデメリットは何か
一方で、ディーゼルエンジンは排出ガス問題という課題を抱えてきた。窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)の排出は環境・健康への影響が指摘され、厳しい規制が設けられている。
しかし、この課題に対しても技術的進歩は着実に進んでいる。高性能な排気後処理装置(DPFやSCR)の導入、燃焼制御技術の高度化により、従来に比べて排出ガスは大幅にクリーン化されている。

また高負荷時に発生する燃えカスの煤がデポジットとなり堆積して吸気系が塞がれてしまうというトラブルが発生するディーゼル車もある。これは発進停止を繰り返すような市街地での走行時に発生しやすい。
ガソリンエンジンのポート噴射であれば高速道路を走ることで燃料に含まれる洗浄成分などがデポジットを解消させてくれるが、筒内噴射のエンジンでは吸気系を洗浄することは不可能だ。したがってこれからは吸気系に定期的な洗浄剤の噴射などを簡単に行えるサービスポートなどの設置をすることで対策していくことが望ましいと思われる。
ディーゼルエンジンは単に高効率なだけでなく、燃料・過給・燃焼制御をガソリンエンジン以上に高度に統合できる柔軟なエンジン方式であることが分かる。電動化や水素技術と競合する存在ではなく、それぞれの特性に応じて共存・補完し合う形で活用されることが現実的だ。
技術の進化によって、従来の制約は着実に克服されつつあり、将来の多様なエネルギー社会においても、ディーゼルエンジンは適応力の高い動力源として重要な位置を占め続けるだろう。









