クルマ好きならインチアップするタイヤホイール交換やローダウンは、もう当たり前のカスタム。車高調も価格が幅広くなって、サスペンションを交換するファーストステップとしても十分に機能してくれるアイテムとなった。
そんな車高調を中心とするスポーツサスペンションに交換する場合、多くのオーナーは当然のことながらコスパを考えることだろう。できる限り安くて良いサスペンションを手に入れたい、そう思うのは当然のことだ。
しかしスペックや商品説明を見比べても、良いことしか書いていないようなカタログページからの情報では、商品の選択を見誤ることになる。肝心なのは、自分が求めているサスペンションの内容をしっかりとイメージすることだ。
サーキットでタイムアップを目指すのであれば、実績のあるサスキットを組み込んで、ひたすらスキルアップに励むというアプローチもアリだが、ストリートでの走りも考慮するとなれば、話は別だ。
いわゆる街乗りからサーキットまで使える仕様とは、よく言われる理想のアシだが、実際には完全に万能なサスペンションは存在しない。スプリングの硬さは変えられないので、減衰力調整機構が盛り込まれていても使える範囲は限られるのだ。
バネレートに対して減衰力が低ければ、伸縮の収まりが悪くなるし、減衰力が高過ぎれば単に動きにくいサスペンションになってしまう。
もしサーキット走行はほとんどしない、というのであれば街中から高速、峠道などストリートで快適かつタイヤのグリップを引き出してドライでもウエットでも安心して走れるセッティングにするといい。
それには、サスペンションを動かしてあげることが大事。路面からの衝撃を受け止めて最小限のリバンプで吸収し、ステア操作によってロールしてタイヤを路面に押し付けてクルマを旋回させ、コーナーの立ち上がりではリアタイヤのグリップ力を高めてくれるからだ。
そんな風にしなやかに足回りを動かしたいのであれば、バネレートやダンパーの構造への理解を深めるべきだ。車高調はノーマルのサスペンションスプリングに比べるとバネレートが数倍高くなっている。
これはノーマルは車高が高くストロークが大きいだけでなく、1G状態での沈み込みも大きくすることで、そこからの沈み込みに対しての反発や伸び側のストロークも豊かなものにしている。こうすることで姿勢変化が起こっても、タイヤのグリップ力の変化を抑えて安定したハンドリングを実現するのだ。
それでも車高が高く足回りが柔らかければ、スポーツドライビングを楽しむには姿勢変化が大きく、前後左右のタイヤグリップ力の変化が大きすぎて、クルマの限界性能を低下させてしまう。だからスポーツサスペンションは車高を下げ、バネレートを高めて姿勢変化を抑えるのだ。
けれども硬すぎれば自重で縮まないため、内輪を路面に押し付ける力は弱く、ロールは少ないのにグリップ力は失われ、外側のタイヤもロールによる押し付け力が働かないから、コーナリングの限界は低くなる。動きはキビキビするので速くなったように思えるが、実際には速く走れない。
ここで重要なのがバネレートと減衰力、そして車高の関係だ。車高を下げるほど重心が下がってキビキビした動きになるが、一定のレベルを越えるとタイヤを路面に押し付ける力が働きにくくなる。
高い車高調の方が、安い車高調よりすべての性能で上回ると決めつけて選ばない方がいい。目的に応じたバネレートや減衰力特性でなければ、サスペンションは十分に動かずタイヤを路面に押し付け続けることができないのだから。
高性能な単筒構造も、一般道を走るだけならその長所を活かしきれないことも多いのだ。
高性能な部品やブランドに心酔して、それを利用している気分で満足感を得るだけでいいなら良いが、本当に気持ちのいい、安全で快適な走りに足回りを作り上げたいなら、中身を理解して選ぶことが大事なのだ。