86/BRZのノーマルのエアクリーナーボックスは、なかなか考えられている。特に先代86BRZでも後期型のMTはエンジンの最高出力を207psに向上させるために吸気抵抗を市販車としてはかなり低減しており、アフターパーツメーカーでもエアクリーナーエレメントを設定しないところもあるほどだ。
しかし、まだまだ改良の余地はある。それは吸気系だ。これまでもインテークチャンバーの容積を拡大するインテークセルキットを紹介し、その効果を検証してきたが、他にも吸気系を改善できるパーツはある。それはダイレクトエアインテークだ。
その名の通り、直接外気を導入する吸気系のチューニングパーツ。86/BRZに限らず、ほとんどの量産車はエアクリーナーの外気取り入れ口はエンジンルームの中にある。それは雨水を避けるためだったり、異物の混入を防ぐためであったり、吸気温度の安定を高めるというのが目的だ。
それは不特定多数のユーザーが購入して乗り回し、維持していくことを考えれば当然の仕様である。いかに207psに近いパフォーマンスを発揮させるかではなく、真夏の渋滞でも安定した性能を発揮できる信頼性こそ、市販車が最優先すべき能力なのだから。
ボンネットを閉めていても走行風でエンジンルーム内はつねに外気が入ってくるから、走っていれば吸気温度は外気とそれほど変わらないハズ。そう思っている人も多いのではないだろうか。
実際、筆者もダイレクトエアインテークを装着する前までは、そう考えていた。信号待ちなどの停車中には吸気温度は上昇しても、数分も走れば外気を吸い込んで、吸気温度は下がるものだと想像している人がほとんどだろう。
だが実際はそうでもないことが、実際に確認することで明らかになった。
カタログデータのエンジンスペックはテストベンチ上のもので、実際に走行中のエンジンが同じ性能を発揮できている訳ではない。水温や油温は同じ数値にできても、吸気温度やエンジンの放熱状態は同じではないのだ。
エンジンルーム内は意外なほど熱気に包まれている。それはエンジン本体や排気系からの輻射熱によって周囲の部品が温められ、エンジだけでなくそれらの熱を発しない部品たちも周辺の空気を温める役に回ってしまうからだ。
吸気温度が10℃下がれば、エンジンの出力は3%くらい変わってくる。空気がそれだけ膨張して密度が低下してしまうため、燃やせる燃料も減るのでECUが補正して燃料を絞ってしまうのだ。
実際、シャーシダイナモでデータを取った結果、86/BRZの場合、吸気温度が1℃上昇すると0.7ps最高出力が低下した、という結果も出ている。
サーキットでのタイムアタックやシャーシダイナモでのパワーチェックは、気温が低い環境の方が成績がいいのが一般的だ。これはエンジンの冷却系の負担が減るのもあるが、それ以上に大きいのが空気密度が高まることでエンジンの出力が高まるからだ。
86/BRZに限らず、シャーシダイナモでパワーチェックするとエンジンスペックほど出力を出せていないクルマは多い。この原因の一つが吸気温度なのだ。
逆に空気密度が低いなら、その分燃料の噴射量が減って燃費が良くなるのでは、と思われる方もいるかもしれない。単純に考えると1回の燃料の噴射量が少なくなるため、そうイメージできるかも知れないが、実際には必要な出力を得るために回転数を上昇させることになるから、むしろ燃費は悪化する。
なるべく吸気温度を下げようとするのであれば、空気の取り入れ方を変えるしかない。そこでダイレクトエアインテークなのである。
またバンパーのグリル部分から走行風を直接取り込む、ということはラム圧による過給も期待できる。エアクリーナーエレメントの濾過抵抗があるから、吸気に直接影響ないという見方もあるけれど、逆にエアクリーナーエレメントの濾過抵抗を軽減することにもつながるのだ。
ただしデメリットも存在する。外気を直接導入する、ということはそれだけ異物を吸い込みやすい。何も気に留めず、クルマを乗り回すだけのオーナーには、こうしたアイテムはお勧めできない。定期的にエアクリーナーエレメントをチェックするくらいのメンテナンスは必要だ。
純正のエアクリーナーダクトがバンパー内部で横方向に伸びているのは、そうした異物や雨水の侵入を防ぐのも大きな目的なのだ。
しかしその結果、ラジエターの放熱やバンパー、ボンネットへの日差しによる加熱が吸入空気を上昇させてしまう。サーキットなど全開時間が長い走り方なら、ものの数分で吸入温度は低下するが、それでもスロットルを閉じ気味な区間があればたちまち吸気温度は上昇する。
実際にエンジンECUに送られる吸気温度センサーの情報をチェックしながら走行してみたところ、信号待ちだけでなく低速走行しているだけでも吸気温度はすぐに再上昇してしまい、首都高速を走行していても、外気温になるまで10分を要した。
一方、ダイレクトエアインテークを装着すると、なんと走り出して10秒後にはほぼ外気温に到達。街中でも吸気温度は劇的に下げられることが分かった。
初夏の外気温が32℃前後の状態で、ノーマルのインテークダクトでは吸気温度は58℃。ダイレクトエアインテークとの温度差は20℃以上あるので、単純計算でこれだけで14psもピークパワーに差が出ることになったのだ。
燃焼温度を下げてエンジンを守るためにも、このアイテムは有効だ。