5万kmを超えたEFFECT編集部のスバルBRZ。相変わらず快調、と思っていたらある日、異音が発生。調べてみると、どうやらクラッチ/フライホイール周辺から発生していることが判明。
ネットの情報によれば86/BRZはクラッチを断続させるレリーズベアリングの表面に樹脂部品が使われているらしく、寿命が短いという問題を抱えているらしい。
そしてクラッチ回りに問題が生じたら、その部品だけでなく3点セットで交換するのがセオリーだ。レリーズベアリングとクラッチディスク、クラッチカバーの3点である。1つの部品だけが極端に劣化することは珍しく、クラッチ周りを整備するのはMT脱着を伴うので、大掛かりな作業なだけになるべく同じ場所の整備はまとまって行いたい。
なのでクラッチ交換の時期がやってきたということから、今回は軽量フライホイールとセットになった強化クラッチへ交換することにしたのである。
フライホイールはクルマの動きにどれだけ影響を与えているのか
フライホイールはクルマのエンジンの最後部、トランスミッションにつながる部分に備わる鉄の円盤である。
そこにクラッチが重なり、駆動力を断続することで発進と停止、変速時のサポートを行う。MTは機構的には非常にシンプルなものであり、ドライバーのわずかな操作がクルマの動きに影響を与えるダイレクト感の高さが特徴だ。
他にもフライホイールの役割としては、セルモーターから飛び出すギアが噛み合うことで、エンジンを始動させるリングギアが外周に備わる。
これは今では少数派のMTでの話だ。しかしATでも同様の効果はトルクコンバーターが発揮している。流体クラッチとして駆動力を伝えるために内部ではATFが循環しているが、全体としては大きなドーナツ状の金属にオイルが充填された状態で回転しているので、フライホイールと同じ働きも兼ねられるのだ。
このフライホイールを軽量化するチューニングは、スポーティなモデルのMT車であれば珍しくなく、エンジンのレスポンスを高めてスポーツ走行をより速く楽しくしてくれるメニューとしてお馴染みのカスタムだ。
さらにFR車では、このフライホイールの軽量化は慣性モーメントの減少によってエンジンの応答性を向上させるだけでなく、車体の動きにも影響を与える。
大きく重い円盤が回転することによって発生するのは慣性モーメントだけではない。コマが自立して回り続けるのと同じジャイロ効果が発生し、車体を安定させるよう働くのだ。
昔から高級車は縦置きFRレイアウトを採用しているのは、このジャイロ効果を車体の安定性向上に利用していたことも大きな理由なのだ。
プロペラシャフトや縦置きエンジン自体よりもフライホイールが生み出すジャイロ効果の方が断然大きく、車体への影響力も大きいのである。
今回、BRZのフライホイールとクラッチを交換して、得られたのはシフト時のブリッピングに対するエンジンの反応が素早くなっただけでなく、加速時にアクセルをグッと踏んだ時に間髪入れずに加速するクルマの動きが鋭くなり、負荷の大きい時に発生するノッキングも減った。
さらにクルマの動きが全体的に軽快でシャープになった。これはフライホイールのジャイロ効果が減少したせいで、2000rpmで走っていても違いを体感できた。ざっと計算してみると、ジャイロモーメント(ステアリングの舵角量でも変わる)は20kgf前後は減っている。
小倉クラッチのスーパーシングルという一番マイルドな仕様でも、これだけの違いがあるのだから、さらに軽量なフライホイールではよりクルマの動きやエンジンの反応が鋭いものになる。ただし街中ではかなり扱いづらいので、その覚悟があるなら試されたし。