PEUGEOT 9X8
プジョー9X8は、2023年にリアウイングを持たないスタイルで登場した時には、その斬新さから注目を浴びたものだ。だが結局ダウンフォース不足が明らかになり、リヤに分割式のスポイラーやフラップを備えたが、2024年からは低いながらもしっかりとしたリアウイングを装備している。
しかもその時点でボディ形状の9割に手が入れられたと言うから、プジョーの苦心ぶりとその積極性はかなりのものだ。
しかしながら、そのコンセプトは相変わらず斬新だ。ヘッドライトが受ける空気は横方向に逃し、それ以外を上面に流す空気とボディ内部を流す空気へと使い分けている。フロントの開口部は高さがあり、ここから取り入れられた空気はタイヤハウスとボディ内部に振り分けられる。
このようなデザインを見ると、やはりイタリアやフランスメーカーの作り出すマシンはアイデアに満ちていると感じる。完成度や信頼性よりも独創性を重んじているのでは、と思わされるほどだ。
シャーシの構造的にはフロントにモーターをもち、トーションバースプリングを使ったプッシュロッド型のWウイッシュボーンと、フロントの構造はトヨタに近いのだが、アーム類の空力的処理などタイヤハウス内の空力まで作り込まれている点がトヨタより進んでいる。
今回の第7戦FUJIでは、予選も終始トップ争いに絡む速さをみせ、2位に食い込んだ。BoPに頼らずに勝てる時が来るまで進化を続けるのか。プジョースポールのこれからの戦略にも眼が離せない。
PORSCHE 963
ポルシェはLMP1時代、フロントにモーターを持つ4WDの919HYBRIDを参戦させ、ル・マンを制したが、一度撤退。ハイパーカーとなって再び参戦を始めた。それがこのマシン963だ。エンジンはV8、4.6Lで90度のバンク間に2基のターボチャージャーをマウントする。
そのレイアウトを含めフェラーリと似通っている部分がいくつもある。となれば速さの違いはBoPによるものなのか。それもあるだろうが、それだけが理由ではなさそうだ。
往年の銘マシン962の後継車と言わんばかりのネーミングだが、その実態はポルシェの完全オリジナルではなく、マルチマチック製のシャーシを採用するLMDhマシンだ。
ただし開発にあたりポルシェAGはマルチマチックに自社の熟練エンジニアを送り込んでおり、919HYBRIDのノウハウを盛り込ませたらしい。ところが、これが裏目に出たようでポルシェ勢は今ひとつ速さを発揮できていない。
フロントにモーターをもつ919と、リア駆動HYBRIDの963では勝手が違ったということなのか。先ごろポルシェは今シーズン限りでWECでのワークス活動を撤退することを発表した。これはBoPによる制限も不満のようで、
カスタマーによるレース活動は引き続き行われるようだが、それで勝てるほど現在のWECは甘くない。いずれは再びワークスチームが参戦するのだろうが、それは現在のホモロゲーションが切れる2032年以降になってしまうのだろうか。
BMW M HYBRID V8
振り返ってみると意外なようだが1999年までル・マン24hでは単独での勝利がなかった。それでもBMWにとっても耐久レースでの名声は重要だ。高性能なだけでなくエンジンのタフさも実証するには、耐久レースでの勝利が必要なのである。
そんなBMWのハイパーカーが、このM HYBRID V8。シャーシはダラーラ製で、キャデラックなどと共通のプラットフォームだ。それでもBMWならではのキドニーグリルをモチーフにしたフロントカウルに合わせてモノコックも先端中央が窪んだ形状となっている。
パワーユニットはV8ターボでLMDh共通のハイブリッドシステムをリアに搭載する。
2023年の参戦から、これまで思ったような成績を残せていない印象もあるが、BMWは2026シーズンに向けて大幅なアップデート、すなわちジョーカーの使用を明らかにしている。すでにスクープされているテストカーの画像によると、キドニーグリルはやや幅を細めて高さを増やしている。
来シーズン、BMWがアッと驚くような仕掛けを盛り込んでくれば、優勝争いに加わる可能性もあるが、現行のLMDhルールではなかなかそれも難しい。しかしBMWらしさを発揮してもらいたい、と思うのは筆者だけではないだろう。