ZD8のBRZ STIスポーツは、「これまで86/BRZシリーズはカッコいいけど、乗り心地が硬くて…」と二の足を踏んでいたスポーティカー好きには絶好のグレードと言える。まるで高級セダンのスポーティグレードのようにしなやかな乗り味で、それでいてステア操作には俊敏に反応するハンドリング性能を両立しているのだ。
BRZ STIスポーツでは、フロントサスペンションのダンパーに日立Astemo製のSFRD(周波数応答式ダンパー)を採用している。これは小さく速い動きと大きくてゆっくりした動きでダンパーオイルの流路を変えて、幅広い減衰特性を実現するものだ。
これが独特のマイルドな乗り味を実現している最大の理由だ。スプリングも最適化されて、何ともしなやかな乗り味を実現しているのである。
それに対してGR86が通常採用しているのはカヤバ製のダンパーだ。これはコンベンショナルなツインチューブ(副筒式)のダンパーで、当然入力の大小に対して減衰力は変化するが、その変化量には限りがある。
しかも納入価格が千円、二千円程度の純正ダンパーには、それほど多くを期待できない。そう考えればGR86/BRZの純正ダンパーはよく出来ていると言ってもいい。しかし、この純正ダンパーでも、実はもっと乗り味をしなやかにできるはずなのだ。
なぜなら筆者は昨年もカヤバの研究施設や工場を取材で訪れ、ダンパーオイルや新形状ピストンなどの新技術による乗り心地の向上ぶりを体感している。ならば、それを採用すればいいのではないか、と思われる人も多いはずだ。
しかしトヨタのコスト管理の厳しさは、業界でも有名だ。部品の納入価格については、わずか数円のコストアップも、なかなか首を縦に振ってくれないからだ。
そうしたチリツモが巨額な利益に結びついているのだろうが、「もっといいクルマ作り」を目指しているなら、こうした投資も必要ではないか、と思わされた。
GR86のアプライドBは、完成度を高めた印象
さて、GR86/BRZの乗り味に話を戻そう。
GR86の方がアプライドは古いのに、エンジンは確実にスムーズで、剛性感の高いボディと乗り心地やステアフィールがまとまっており、スポーツカーとして仕上がりの高さを感じる。これはECUの見直し、足回りの見直しをアプライドBでしっかりと行っているからだ。クラッチの繋がり方も自然で、こうした部分に熟成へのこだわりを感じる。
それと比べるとBRZはアプライドAで問題となっていた部分には手をつけず、アプライドCになってSTIsportを復活させスポーツカーとしての走りの性能を若干犠牲にしながら、乗り心地を高めて快適性と高級感を高めてきた。
それでも公道を普通に楽しんでいる程度であれば、BRZ STIsportのハンドリング性能で不満を感じることはないだろう。それこそがスバルの狙いであり、GR86と異なる価値の提供なのである。
同じクルマをベースとしながら、ここまで乗り味が違うのは、そうしたメーカーやブランドの姿勢の違いによるところが大きい。
トヨタのGRブランドに対する力の入れようが改めて感じ取れると同時に、販売台数では勝負にならないスバルBRZの差別化が、改めて浮き彫りになった。