登場後3年目に突入したスバルBRZがアプライドCへと移行し、6速MT仕様にもアイサイトが搭載されるようになった。それと同時に追加設定されたのがSTIスポーツというグレードだ。
先代のZC6でもSTIスポーツは用意されていた。内装を専用の配色として、STIの補剛パーツを奢り、ホイールも18インチにアップ、専用セッティングのザックスダンパーとスプリングによるサスペンションチューンを奢られてはいたが、GTグレードとの差はそれほど大きくはなかった。価格差も小さいが、キャラクターとしてはGTの延長線上にあったのだ。
それと比べるとZD8のSTIスポーツは機械式とはいえ、減衰力可変ダンパーはかなり効果があるようだ。街中ではまるで高級サルーンのようにしなやかで、道路の凸凹が目立つ昨今でも、非常にジェントルな乗り心地を提供してくれる。先代の硬派なSTIスポーツとは真逆と言ってもいいほど、キャラクターが違う。
しかもステアフィールが自然なことにも唸らせられた。以前乗ったWRXのSTIではロール剛性を高めるため強化したスタビライザーのおかげで突っ張った感触を覚えたし、レヴォーグのSTIスポーツでは、ステアリング舵角に対するタイヤの舵角がリニアじゃなく転舵時に違和感があった。
BRZはより低重心でロールセンターが高いため、セダン系のように無理してロール剛性を上げる必要はないことが、素直でシャープなハンドリングを実現していることに改めて気付かされた。
市街地を制限速度程度で走行している時などは路面の継ぎ目など僅かなギャップで、フロントサスペンションがポンポンと弾むような動きを見せてピッチングを発生させることもあったが、これはダンパーが馴染んでフリクションが減れば解消される問題なのかもしれない。
日立Astemo製の機械式可変ダンパーSFRD(周波数応答式可変ダンパー)は、バルブ構造が複雑なので初期のフリクションは通常のダンパーよりも大きい可能性もある。それでもそれを踏まえても、このしなやかな乗り味とハンドリング性能の両立は魅力的だ。
しかしやはり限界というものはあり、さすがにサーキットを攻め込んだり、峠道でもアンジュレーションの激しいシーン、高速道路でもやはり超高速域で大きなストロークを伴うような状況では減衰力、バネレートともに不足気味であったから、本気で攻め込むオーナーには、やや力不足の足回りになってしまうことは否めない。
パワートレーンはすべてのグレードで共通の2.4Lの水平対抗4気筒DOHC4バルブエンジンで、6速MTか6速ATを組み合わせる。動力性能に不満はないが、STIスポーツの乗り味がここまでジェントルだと、パワートレーンの仕上がりにも差別化を望みたくなる。
というのも排気系の内部共鳴音だと思われるのだが、2500rpmくらいから3000rpmの間でスロットルをパーシャルにして巡航している時に、バラバラと排気音が響くのが高級感を損なっている印象がある。エンジンの回転フィールはスムーズなのに、ちょっと荒々しさを感じさせるのだ。けれども、粗探しをしても気になるのはその程度のこと、ということだ。
キャリパーとローター以外は同じブレーキシステムなのか、と思うくらいペダルを踏む足に伝わってくる剛性感が違う。これはまだ走行3000km台の新車ならではのフレッシュさもあるが、やはり標準のブレーキとはレベルが違うのだ。
ただし普通に公道を走るレベルであれば、標準仕様のブレーキでも制動力やコントロール性は十分に確保されている。良質なペダルフィールを維持したいなら1年に1回、ブレーキフルードを交換してやればいい。
BRZ STIスポーツは、ZD8のポテンシャルをジェントルな方向に振った大人のスポーツクーペと言える。MTでも運転は楽しいが、街中や郊外をATで颯爽と走らせるにも最適なグレードだ。