それはともかく、スーパー耐久の進化ぶりが刺激的だ!
日本にはスーパー耐久選手権というレースカテゴリーがある。国内4輪レースの世界を少し知っている人ならば、市販車に安全装備などの改造を施し、長時間ひたすらサーキットを周回するという過酷なレースだ。
以前はクルマの改造範囲が狭く、ほとんどノーマルに近い状態のクルマで燃費やマシンの耐久性を考慮して周回を重ねるだけという、地味な展開(それでもランエボ VS GT-Rはなかなか見応えがあった)のレースという印象だった。しかし最近は(といってももう20年くらい前から徐々に導入されていた)車検対応のエアロパーツの装着が認められ、GT3マシンなども参戦OKとなって、レースの速さや華やかさが年々高まった。
その結果、ホンダNSXや日産GT-R、AMG GT、レクサスRCFなどの大排気量スポーツカーと、MAZDA2、ホンダ・フィットが同時に走るという、かなりカオスなツーリングカーレースという様相だ。
マツダ・ロードスターやトヨタGR86/スバルBRZの参加も多く、これらのスポーツカーが参加するカテゴリーとしては、最速のカテゴリーであり、市販車最高峰のレースと言えるのである。
ST-Qの新設により新たな時代へ
さらに一昨年からは、自動車メーカーが開発車両を走らせることも認められるようになった。これはST-Qクラスという別枠のカテゴリーであり、実質的に改造無制限(といっても勝つための改造ではなく、量産車へフィードバックするための仕様変更だ)と言ってもいい。
一番特徴的なのは、トヨタが走らせている水素エンジンのGRカローラだろう。GRヤリスと同じ1.6L直列3気筒ターボエンジンを水素燃料に対応させ、リヤシート部分に高圧水素タンクを搭載し、レース環境で走行させてエンジン開発を行なったのだ。
2023年には水素をマイナス253℃に冷却した液化水素として、さらにエネルギー密度を高めた。これによりガソリンと比べて低いエネルギー密度をカバーする技術として、注目される最新技術だ。
しかもトヨタはGRヤリスとGR86でCNF(カーボンニュートラル燃料=ガソリンの代わりとなる合成燃料)を使い、走らせている。同じくスバルはBRZで、日産はフェアレディZで、ホンダはシビック・タイプRでCNFを使い、ミライに向かって加速しているのである。
マツダはロードスターRFでCNFを使うほか、ロードスターのパーティレースでランキング上位を走らせたり、MAZDA3のクリーンディーゼルでバイオ燃料(廃食油や微細藻類の油脂から生成した燃料)を燃やして2.2Lのディーゼルから300psものパワーを発揮するまでに仕上げて戦った。
そんな実験的車両が走る近未来的感覚と、前述の大排気量スポーツではアストンマーチンやアウディR8、ポルシェ・ケイマンなども加わり、エンジンと排気音のるつぼに包まれる感覚に襲われるのが、なんとも刺激的なのである。
しかも耐久レースゆえ、瞬きも許されないほどの緊張感ではなく、ある意味のんびりとレース観戦できる時間的ゆとりがあるのもいい。富士スピードウェイではキャンプエリアにテントを張り、コーヒーを淹れたり、料理したり、マシンが走っていない時には読書を楽しむ、そんなゆったりとしたレースウィークを楽しむマニアも確実に増えている。まるで欧州のレースファンの様相なのだ。
長時間楽しめるイベントとしてもスーパー耐久レースは、コスパのいいレース観戦だ。ネット観戦もできるが、サーキットでネット観戦も同時に楽しむと、臨場感と情報量でさらに満足度は高まる。
今年はサーキットでレース観戦しようというなら、まずはスーパー耐久選手権をお勧めする。