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航空機用炭素繊維の端材を廃棄から救い、S耐マシンの機能パーツへと再利用する、マツダとスバルのサステナブルな試み

カーボンファイバーという高機能素材をご存知だろうか。ゴルフクラブのシャフトや釣竿、テニスラケット、自転車のフレームなどのスポーツ用品から、航空機の胴体や翼などの構造材、レーシングカーのボディやモノコックなど、軽量で高い剛性を求められる部分に使われている。

市販車でも高性能な高額車両にはカーボンファイバーで製作されたパーツが内外装に奢られていることも多い。それは軽量高剛性なだけでなく、高性能をイメージさせ高級感も演出できるというメリットがある。

しかしカーボンファイバーを使った部品はそれだけに高価だ。化学繊維を蒸し焼きにして作られた炭素繊維を型に入れて樹脂で固めるとCFRP(炭素繊維強化プラスチック)と呼ばれる製品になる。

しかも樹脂の含有量が少ないほど軽量で高剛性な製品となるため、製作にコストをかけるほど高性能な部品として仕上げることができるのもCFRPの特徴と言える。

そんなCFRPは当然、マツダスピリッツレーシングのマシンにも導入されている。特にロードスターRFをベースとした12号車はルーフやドアまでCFRP製として、軽量化と空力性能の向上を果たしており次世代スポーツカーの開発のために様々な試みがされている。

そんなCFRPでも環境負荷を減らすための試みが再生カーボンファイバーを使ったレーシングパーツ製作である。再生カーボンファイバーとは文字通り、再生されたカーボンファイバーのことだ。

カーボンファイバーは軽量高剛性で高コストであるだけでなく、リサイクル性が低いという難点をもっている。複合素材ならではの弱点とも言えるが、完成品のCFRPをリサイクルする技術も開発が進んでおり、短繊維をコンクリートの補強材にするなど実用化も進んでいる。

しかし今回の試みはもっと源流に近く、環境負荷を軽減できるものだ。それはプリプレグの端材を有効利用した再生カーボンファイバーなのである。

プリプレグとは、あらかじめカーボンファイバーの織物に樹脂を含浸している素材で、樹脂の含有量を極限まで減らす製法に用いられるもの。型に収める時点で樹脂を含浸させるとなると、余分に樹脂が必要になる上に、しっかりと織物の中心部まで樹脂を含浸させることは難しい。

その結果、目では見えないほどの気泡が残れば、製品の仕上がりに支障を来たすだけでなく、経年劣化により気泡が膨張して製品を変形させてしまうこともある。

そのためレーシングカーや航空機など極限の性能が求められる分野ではプリプレグを使用することで安定して最高のCFRP製品を作り出すことを追求している。だが、その一方でプリプレグを使うことは織物の方向で素材のカットが決まり、想像以上に素材に無駄が出る。

ボーイング787の主翼などをCFRPで製作しているスバルの航空宇宙カンパニーは、これまでプリプレグを惜しげも無く使い、端材は廃棄しながらCFRP部品を作り出してきた。この端材を有効利用できればさらにカーボンファイバーの環境負荷を減らして、より手軽に高性能なCFRP製品を導入できそうだ。

とはいえ、一度樹脂を含浸させたプリプレグを再利用するのは、それほど簡単ではない。プリプレグは熱硬化性樹脂を含浸させており、冷蔵保存していても一定期間しか使用できない。したがって使用期限が過ぎたプリプレグは本来の強度や剛性を発揮することができないから、廃棄処分となってしまうのだ。

そこでスバルは2021年からこのプリプレグの再利用について研究を始め、2022年から参戦しているスーパー耐久選手権では、参戦マシンのスバルBRZのボンネットフードやアンダーパネルなどにプリプレグから再生したカーボンファイバーを使い、軽量化や冷却性能などの改善を検証している。

そして2024年はマシンを4WDのWRX S4へとチェンジ、まずはリアウイングを再生カーボンファイバーで製作した。これはプリオプレグの端材でもさらに小さなモノを利用し、樹脂を焼き飛ばすだけでなくカーボンファイバーのクロスを解して単一方向の繊維として撚り直した、スライバーと呼ばれる素材をクロスと重ね合わせて使用している。

S耐最終戦でマツダとスバル共同でラウンドテーブルを開催したことで、両メーカーのマシンを目の前に、それぞれのエンジニア、またスバル航空宇宙カンパニーのエンジニアにも詳しく話を伺うことができた。

スバルがボーイング787の主翼材料として使っているカーボンファイバーは、世界でも最高級の素材である東レの高弾性カーボンファイバーであるというから、素材としては最高のものだ。再生カーボンファイバーの場合、樹脂を熱分解させてガス化し、そのガスを燃やして熱源としているから効率よくカーボンファイバーを取り出せる。

バージン素材のカーボンファイバーを生産するのと比べ、10分の1のエネルギー消費で済んでしまうという省エネぶりと、バージン素材の8割の強度はあるようなので、ボディ外板などのCFRP化には十分すぎる内容と言える。

今回、マツダ3のボンネットをCFRP化するにあたりスバルから再生カーボンファイバーの提供を受けて、外部の業者が製作したそうだが、仕上がりはバージン素材のプリプレグを使ったものと全く遜色ないものだった。

そしてボンネット以外にも最終戦ではリアウイングの大型化やフロントボトムへのスプリッターが追加され、ダウンフォースが強化されコーナリングスピードが向上している。予選でのタイムアタックで目標タイムには届かなかったが、1分52秒台を記録し、2023年のベストタイムよりも3秒も縮めてみせた。

決勝レースでも序盤はウエット路面だったことからFRの12号車よりも速いラップタイムを刻んだことでも証明された。

ちなみに再生カーボンファイバーは、未使用のプリプレグだけでなくハニカム材を挟んだコンポジット材や製品となって使用済みのCFRP製品でも再生できる。今後、普及すればマツダ車の内外装にCFRPが採用される機会が増える可能性も高そうだ。

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