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<番外編>IDEMITSU IFG Plantech Racingは他の低粘度オイルと何が違うのか。出光エンジンオイル開発者インタビュー後編

出光興産が海外で展開するエンジンオイルラインナップに、植物由来のベースオイルを用いた最高峰IDEMITSU IFG Plantech Racingが加わった。開発陣へのインタビュー前半では植物由来の高性能オイルを開発、販売に至った理由と開発の苦労、高い性能を実現した秘密を語ってもらった(前編記事はこちら)が、続編ではさらにディープな領域の開発裏話、パッケージにまで至るこだわり、今後の展開などについて聞いた。




筆者(自動車ジャーナリスト高根英幸、以下高根) 
私はもう40年以上、自分でエンジンオイルを交換していますけど、0W-20って、ものすごいシャバシャバなオイルじゃないですか。普通に考えたら、どれも抵抗が少ないので他の0W-20と比べても、その走り出しが違うっていうのはちょっと想像ができないですね。粘度が違えばもちろんわかるんですけど、そんなに違うもんですか。


中植大介氏(出光興産 営業研究所 モビリティオイル開発グループ 以下中植
0W-20の中でも添加剤のランクみたいなのがありまして、粘度指数向上剤というものでも1番いいものを使っていますので、同じ粘度グレードだけれども高温での粘度はより一定に保ちます。低い温度では粘度が上がることなくサラサラを維持して、0W-20よりも低い粘度に仕上がります。

出光興産 営業研究所 モビリティオイル開発グループの中植大介氏


高根 
粘度指数向上剤というのは、一般的にはポリマーと言われてるものだと思うんですけど、それにも色々グレードがあって、すごくいいものを使ってるということですか。


中植
はい、こだわってます(笑)。


高根 
エンジンオイルブランドによっては、結構ノンポリマーにこだわってるようなところもあったりすると思うんですよ。当然ポリマー入ってると初期性能はいいけど、ポリマーっていうのは高分子だから、分断してったら性能劣化だったりスラッジが発生したりとか、そういう問題があるからと言ってるんですけど、その辺りはどうなんでしょう。



中植
わざとポリマーを切って、粘度がどれぐらい下がるかっていうのを見る試験があるんです。従来の高性能なオイルの0W-20だったら、100℃の動粘度で6%から9%ぐらい粘度落ちちゃうんですけど、このオイルだったら0.7%しか粘度下がりません。つまり、ほとんど変わらないんです。


高根 
そうなると素人考えだと、「じゃあポリマーなんていらないんじゃないの」って思っちゃうんですけど、それでもやっぱりあった方がいいわけですね?


中植 
そうですね。ベースオイルだけだったら、どうしても粘度が足らない。0W-20にも全然ならないんで、そこを20番に持ち上げるために、ポリマーを入れています。今は入れると、通常だったら切れて粘度がどんどん落ちてきちゃうんですけど、それが少ない油に仕上げています。

IDEMITSU IFG Plantech Racingの各試験結果。左は高温下でのオイルの蒸発性、中央がポリマー分断後の粘度低下、右は摩擦損失を示す。




高根 
いわゆるマルチグレードで、一時期は例えば5W-40とか、かなり幅が広いオイルは結構作るの大変だったという話も聞いてるんですけど、あれはベースオイルを何種類か混ぜることで、粘度調整して、プラスポリマーは使ったりもしていますよね。でもこれはそうすると、ベースオイルは1種類だけで作ってると思っていいですか?


中植 
ベースオイルは先ほど示していた通り、植物由来のものとエステルを入れていて、その辺りの混合になってます。


高根 
でも、その2つで粘度レンジを広げるとか、そういう考えにはないわけですよね。あくまでも0W-20ってことは、粘度自体はあんまり上がらず変わらずみたいな、そういう考えですもんね。上がらずって言い方変ですけど、高温になっても粘度が20っていうのは、要は柔らかいですけどそれで油膜切れを起こさないっていうのが大事なわけですよね。


中植 
市販車でしたら日本のカーメーカーが出している車両にでしたら、0W-20を使ってる車、広くありますよね。そこに対しては、もちろんマッチしたオイルになっています。


高根 
むしろ5W-40が指定のエンジンに対しては柔らかすぎて、向かないわけですよね。


中植 
そうですね。車の取り扱い説明書ではないんですけど、それに従った粘度で、 0W-20が適合しているんだったらお使いいただけますという感じです。




クルマの走り出しが変わる! 超高性能オイル


高根

しかし、走り出しで違うっていうのは、ちょっと驚きましたね。


永井利幸氏(出光興産 潤滑油二部 セールス&マーケティング課 チーフエンジニア 以下永井
そこはあえてですね、この生の声だと思ってまして。試験では、どのオイルを評価してるかっての
隠して走行してもらいました。


田辺太祐氏(出光ルブテクノ 千葉事業所 実験一課主任 今回テストドライバーを担当 以下田辺
すべてブラインドにされていました。


高根
何もデータを何も見せられない 状況で運転したわけですね。どうでしたか?
 
田辺
走らせて感じたことと、後でデータ見るとそこの相関ってのはやっぱりマッチしてました。


高根
素晴らしいセンスです。


永井 
すごいですよね。


出光ルブテクノ 千葉事業所 実験一課主任の田辺太祐氏



高根
0W-20のオイルを使ってるクルマってすごくいっぱいあって。トヨタさんも そのトヨタ純正のキャッスルブランドのオイルも0W-20ですし、GRでもスポーツオイルと言いながら0W-20があって、しかもGRの中でもツーリングとサーキットの2種類用意されています。


このPlantech Racingに関しては、その耐久性は最終的にどれぐらいと思っていいんでしょうか。



中植 
このオイルはAPIなどできちんと認証を取れていますので普通の市販のエンジンオイルと同じように使うことができます。


高根 
つまり、自動車メーカーのその推奨する交換時期ということですか。


永井 
大体1万km交換が多いと思うんですけど、1万kmは十分に走れます。


高根 
なるほど。ちなみにこれ、日本でも買えるとは聞きましたけど、ホームページからですか。


永井
そうですね、ご購入いただけます。


高根 
その場合っていうのは、出光さんの工場とか倉庫から発送されるわけですね。


永井 
そうです、弊社のパートナー様の倉庫から配送させていただきます。


高根 
海外から来るわけじゃないですよね。でも結構いい値段しますね。 こうなるとやっぱりスーパーカー向けのオイルじゃないかと思うんですけど。


永井 
はい、これは日本で製造して、日本で在庫を持たせていただいて。日本製造、日本発で発信させていただいてます。


高根 
つまり、海外向けのサイトではありますけど、そうすると海外にはそれなりの送料がかかるということですね。


永井 
そうですね。例えば今、タイの方ですと送料は1万円しないぐらい。8000円ぐらいですね、4リッター1缶で。


日本の方はここ経由でご購入もいただけますし、今、タイとマレーシア、シンガポール、オーストラリア この4つの国の現地に住んでる方は、このサイトを通じて買えます。注文したら日本から発送させていただきます。


高根 
順次その地域は広げていくんですか?


永井 
今はタイ、オーストラリア、シンガポール、マレーシアのみになりますが、計画では中国、インド、インドネシア、アメリカ、ブラジル、メキシコ、UAEへと広げていく予定で、随時発売をさせていただきます。


高根 
なんか中国とかに売り出したら偽物が出回らないかちょっと心配ですけど、公式サイトでの通販だけなら安心ですね。

出光がエンジンオイルで目指す方向について


高根
ここから先の発展性と言いますか、できたばっかりでこんな質問をするのはなんですけど、この先のオイル開発はどうなっていくんでしょうか?
例えば従来のオイルにこの植物由来のベースオイルがブレンドされて、性能とその環境性を高めていくっていう考え方もできますし、どうなっていくのかなっていうのが興味のあるところなんですが。


永井 
はい、これを皮切りに仕掛けていこうと考えております。


高根
このPlantech Racingをイメージリーダーにして、ですね。

永井
ぜひパッケージを手に取って見てください。まだ色々と仕掛けがあります。


高根
箱に入ってるの、すごいですね。4リッター缶が、化粧箱入りって初めて見ました。ウイスキーじゃないんですから(笑)。




永井 
この状態で、なおかつこれを覆う段ボールも海外を想定して分厚い段ボールにして、このサイズぴったりにしています。
ぜひ中も開いていただいて、まだした仕掛けがあります。中には手紙が入っております。この商品に込めた思いというものを文書で書かせていただいております。


高根
はぁ~なるほど、これは凄いこだわりようだ。この化粧箱だけでも重たいですね。随分とまたいい素材を使ってて。


永井 
はい、こだわりにこだわりました(笑)。




高根
あとは、クルマ好きのユーザーに向けて何かメッセージなどありましたらお願いしたいです。


永井
そうですね、ぜひ使っていただきたいですね。 本当に体感できるかってところは、正直本当かってところはあると思うんですけど、実際乗られた方もそうですし、私も試乗してみました。 


で、人によって感度の違いはあると思うんですけど。なんか違うなっていうところはありました。やはりモリブデンがたくさん入ってるので最初の走り出しが違う。少し踏んだだけで、ぐいっと出る印象です。


私のイメージでは、じゃじゃ馬っぽいイメージを持っています。少し踏んだだけでガンって出るんで、暴れん坊みたいな感じですかね。それが好きな方には好きだと思いますね。自分でこうクルマをコントロールしたい人にとっては面白いオイルかなと。

出光興産 潤滑油二部 セールス&マーケティング課 チーフエンジニアの永井利幸氏(写真右)


高根 
何も考えずにアクセル踏むだけというよりも、踏んだ感触や反応を楽しみながら走る人には、向いてるわけですね。


永井 
それを実感できる商品なのでお試しいただきたいなってところと、 「俺、なんか環境にいいことしてるな」と思いつつ、週末のドライブを楽しんでほしいなって思います。




中植 
ただ、純粋にレーシングという名前の通り、性能も非常に高いものになっているので、植物由来のエンジンオイルなんですけど、この運転を楽しむっていうところでもこの商品、ぜひ楽しんでもらいたいなとは思っています。




高根 
クルマ好きであればあるほど、同じ粘度のエンジンオイルでそんなに違いあるか? って思う人も多いんじゃないかと思うんです。ブランドでモチュールとか信仰してる人も結構多くて。


やっぱりオイルにこだわってる方は多いと思うので、今回のPlantech Racing、気にかけて試してもらえると、すごく面白いなと思いますね。

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