55号車のMAZDA3は予選は総合で33番手。これは同じST-QクラスのスバルBRZ CNFコンセプトの一つ前であり、BRZの後ろにはロードスターRF CNFコンセプトの12号車が続く。
排気量も異なる開発車両クラスでは速さを比較することにあまり意味はないが、スポーツカーを向こうに回してディーゼルレーサーが頑張っているのを見ると、応援せずにはいられなくなる。しかもスタイリングの美しさでは定評のあるMAZDA3だけに、クルマの未来を背負っている感が漂う。
ST-Qのもう1台、12号車もよく見るとノーマルのRFとは全く違う作り込みぶりに、唸らせられる。今シーズンのマシンはカラーリングを変更しただけでなく、あらたに新車から作り直しているという。
オーバーフェンダーによるワイドボディ化だけでなく、ハードトップもまったくデザインが異なり空気抵抗を軽減する滑らかなリアウインドウが与えられている。さらにドアはアウタースキンだけでなく、ドア全体をCFRP製として、見た目を守りつつ大幅に軽量化されている。
コックピット周りもさすがワークスと言える完成度の高いシンプルな作り。このままGT3レーサーとして発売してもいいのでは、と思えるほどだ。
120号車は倶楽部マツダスピリットレーシングとして、昨年の各地パーティレースのシリーズチャンピオンを集めた選抜メンバーでドライバーが構成されている。
メンバーの中には昨年も選ばれた常勝ドライバーもいるが、今年はシニアドライバーが2名も加わっている。これは趣味としてモータースポーツを楽しむ者にとって、励みになることだろう。
決勝レースの長い戦いが始まる
午後3時に決勝レースがスタート。この日は曇り空が多い天候もあって、比較的淡々と進行した。過ごしやすい天候はドライバーだけでなく、メカニックなどチームスタッフや、観客など関わる人間すべてに余裕を与え、ゆったりとした空気感でレースは進行。マツダスピリットレーシングの3台は、順調に周回を重ねていく。
MAZDA3は排気系をモディファイしたとされているが、相変わらず排気音はほとんど聞こえない。ノーマルよりも静かなのでは、と思えるほど静かに疾走する。
一方、CNFを燃焼させている12号車のロードスターRFは、2Lエンジンということもあってか、NDロードスターの中でも一番華やかに排気音を響かせる。
120号車はドアにトラブルがあったらしく、走行中にドアが開いてしまうハプニングがあったようだが、ピットインして修復。
日が暮れて、周囲が真っ暗になってもレースは続く。夜中には弱い雨が降り続き、タイヤ選択に悩むシーンもあったが、無事乗り越えた。
朝を迎えても、レースは続く。マツダスピリットレーシングの3台も順調に周回を重ねていく。
しかし終盤になって、マツダスピリットにも試練が襲う。MAZDA3のトランスミッションからオイル漏れが発生。放っておけばオイルをコース上に巻いてしまうリスクとミッションブローのリスクから、即座にピットにマシンを入れてトランスミッションの交換を実施。
エンジンルームいっぱいに押し込められた2.2Lのクリーンディーゼルとマニュアルトランスミッションゆえ、交換作業は簡単ではない。けれども訓練されたレースメカニックの手によってテキパキと作業が進められ、再びコース上へと送り出すことができた。
そしてゴール。スーパー耐久選手権の中でも、富士24時間耐久レースのゴールは格別だ。チェッカーフラッグを受けてホームストレートに戻ってきたマシンはピットロードを逆走してチームスタッフに迎えられるのだ。これは側で見ていても感動する。
こうして耐久レースで鍛え、試し、また考えることで挑戦のループを回し、市販車をよりよくしていく。それがマツダの選んだ道なのだ。