86/BRZは、乗車定員は4名ながら、極めてスポーツ性能の高いクルマだ。ノーマルの足回りはサーキットでの走りまで想定しているから、乗り心地は良くない。
こうしたクルマはサーキットでの限界走行時の挙動まで評価されてしまうから、ボディ剛性を高められるだけ高めて、街中でも辛うじて動く足に仕立てたのだろう。ブレーキパッドとフルードを交換するだけでサーキットを攻められる。
ストリートでは100km/hを超えてからようやくまともに動くような仕様なのだ。つまり高速道路ではそこそこ快適だが、全体的に硬い乗り味。
キビキビと動く挙動がスポーツカーらしいと気に入っているオーナーなら、それでもいいが、他のクルマに比べて明らかに乗り心地は悪く、ストリートでは路面を捉えることなく跳ねまくる。これは昨今の大型トラック増加による路面の凸凹もあって、それはもう酷いものだ。
したがってサーキットを走るのがメインじゃないなら、モディファイは足回りから始めるべきじゃないだろうか。というのも86/BRZは今時のクルマ、それも2LのFRというこだわりのレイアウトでありながら200万円台半ばからという、激安とも言える新車価格を実現していた。
その皺寄せは、目に見えないところに影響を及ぼしている。上級グレードには独ザックス製のダンパーを奢っているけれど、それ以外はKYB製のダンパーだ。納入価格は1本1000円もしないダンパーに多くを求めるのは無理がある。
しかしアフターマーケットに目を向ければ、たくさんの高性能ダンパーが選び放題という状態だ。ノーマル至上主義のオーナーも否定はしないけれど、この状況を指を咥えて眺めているだけ、というのは何とも勿体ないことなのである。
どこをどう走っても快適でカッコよく、サーキットを走っても安定して速い、というサスペンションは残念ながら存在しない。走る場所、ペース、目的に合わせてセットアップできるのがサスペンションであり、どこを走っても快適で速いという足回りは理想だが、実現するのは難しい。
車体を支えるコイルスプリングとそれを抑えるダンパーを使用している以上、減衰力を切り替えられるダンパーでもスプリングは固定なので、対応させるには限界があるのだ。
だがスポーツカーは自分の運転操作に対する反応が鋭く、素直なのでサスペンションのセッティングやホイールアライメントを変更すると、その効果は明確に現れる。減衰力調整のダイヤルを1段変えるだけで、乗り味が変わるほど。ぜひ自分好みの乗り味を追求してほしい。