先日も老舗の自動車雑誌媒体の記事でトルクとパワーの解説を見かけたが、単位の話が中心で本質を突いていない。トルクとパワーの関係性を理解している人からみれば、どうにも困った内容ばかりの記事が多い。未だに最高出力と最大トルクはまったく別の性能だと思っている人も多いようだ。
エンジンの性能を表現する時に「トルクはないがパワーがある」とか「パワーはないがトルクはある」という記述を見ることもあるが、それはパワーとトルクの関係が分かっていないことを自ら明らかにするようなものだ。
パワーとトルクは完全に関連性のある性能だ。その2つを見比べるだけで、どんな特性のエンジンであるのか、判断することができる。クルマやバイクを走らせている時、力強い加速感から「パワーがある」と感じている人が多いようだ。しかし、それは実際に感じているのはトルクなのである。
高回転域の加速なのだからパワーなのでは? 最大トルクの発生回転を超えているからパワーなのでは? そう思う人もいるだろう。しかしあくまでもクルマを加速させる力はトルクなのである。力を英語にするとパワーだから、ややこしいし勘違いが生じる。
クルマはトルクで動いている
加速力の強さからパワーがある!と感じるのは実はトルクで、変速機はトルク増幅器であり、ATのトルクコンバーターはトルク調整器なのである。トルクコンバーターを直訳するとトルク変換器だが、その役割はトルクを伝達したり吸収(熱エネルギーに変換)するので、調整器とした方が内容に即している。
とにかくクルマを動かすのはトルクであり、パワーはトルクを積み重ねたものに過ぎないのだ。最大トルクと最高出力の発生回転数が違うのは、最大トルクがそのエンジンの最も効率のいい領域であり、そこを超えてもトルクは減っていくが、それよりエンジン回転数上昇による燃焼回数が上回るのが、最高出力が発揮される領域なのである。
トルクはエンジンが燃焼1回によって発生させる直接的なチカラのこと。クランクシャフトを回すチカラそのものがトルクだ。
じゃあパワーは何が違うかというと、そもそも1馬力(PS)の定義は、1秒間に75kgの重りを1m持ち上げること。1秒間という時間があるから、その間にエンジンは1回燃焼するのと10回燃焼するのでは、発生する力が違ってくる。だからエンジン回転数が高いほどパワーは出しやすいことになるのだ。
高回転型は排気量アップと同じ効果
レーシングカーのエンジンが高回転型なのは、燃費を無視しても燃焼回数を増やした方がパワーが出せるから。しかし燃費は悪いし、エンジンの耐久性も短いというデメリットもある。
過給機付きのエンジンがパワー(実際にはトルク)があるのは、エンジンの容積以上に空気を押し込み、たくさんの燃料を燃焼させるからだということは知っているだろう。高回転型のエンジンも実はそれと同じことをやっているのだ。
例えば1600ccのエンジンが8000rpmで回転しているのと、3200ccのエンジンが4000rpmで回転している状態は、排出されえる排気ガスの量はほぼ同じということになる。実際には高回転で回す方が吸排気の効率が落ちる(完全に新気への入れ替えはできず、まだエネルギーの高い排気ガスを捨てる)のでため燃費は悪くなる。
それでも軽量コンパクトでパワーが出るエンジンの方が速く走れるため、レーシングカーは高回転型のエンジンを搭載するのだ。
トルクが細いエンジンでも高回転化できれば、変速機によって回転数とトルクをトレードすることで、トルクを増やせる。だから高回転型のエンジンは速いのである。