エンジンは動力の伝達を断続させることが必要
モーターのトルク特性は、エンジンとは全く異なります。エンジンはアイドリングから回転が上昇してトルクが増大し、高回転になると効率が落ちます。エンジンは1回1回の燃焼によって駆動力を得るため、ある程度回転数が上昇して、吸気と排気のバランスが取れた状態にならなければ、強いトルクを発生することも難しいのです。
しかも、高回転になると吸排気の作業も追い付かなくなり効率は落ちてしまうことがあります。バルブタイミングを可変する機構は、こうした弱点を補うものとして、今やほとんどのエンジンに備わっていますが、それでも完全に弱点が解消された訳ではありません。
またエンジン車の発進時にはエンジン回転を上昇させつつ、駆動力を伝えるので、いきなり全ての駆動力を一気に伝えると変速機などの駆動系に衝撃が伝わり壊れてしまいかねません。発進加速も唐突になり、乗員は衝撃に身構えることが必要になってしまいます。
そこでエンジン車には駆動力をスムーズに伝えるクラッチが備わっています(AT車に使われているトルクコンバーターも流体クラッチという、液体の圧力やせん断抵抗を利用したクラッチの1種です)。
クラッチは変速時にも駆動力を断続するために使われます。AT車ではトルクコンバーターはそのまま動力を伝えますが、AT内部のクラッチが切り替えられることで変速を実現しています。
モーターは完全停止できるのでクラッチ不要
一方、モーターは極低回転から強いトルクを発生させます。また、エンジン車の発進時には駆動系に衝撃が伝わらないようにクラッチが備わっていますが、モーターは発進前も完全に停止することができるので、クラッチは必要ありません。
モーターは磁力による吸着と反発を利用してトルクを発生させています。そのため、停止中からの発進の瞬間でも最大トルクを発生できます。そのため、静止状態から最大トルクで加速すると非常に力強く感じられるのです。
ただし、発進時は電力消費も大きいため、巡航距離が短くなることもあります。そのため、自動車メーカーによっては乗りやすさや巡航距離を考慮し、穏やかな発進加速を実現しています。
エンジンは回転数が上昇すると燃焼回数も増えて、冷却によって捨ててしまう熱エネルギーも増えてしまいます。そのためトルクがあまり必要ない巡航時にはエンジン回転を抑える変速機が必要ですが、モーターは負荷によって電力の消費量が変わるだけなので、原則として変速機は必要ありません。
そこでEVやハイブリッドのモーターでは発進や加速時に必要なトルクを得るための減速機(ギア比固定)を使います。ただしモーターの回転数も上限があるため、速度域が幅広い高性能車にはモーターでも変速機が使われるようになってきました。